カイシャで生きる 第39話
損害保険の大手、損保ジャパン。その人事部で働く今(いま)将人さん(43)は、障がい者や性的少数者への理解、活躍推進を担当している。
体の構造は女性だ。けれど、こう言う。
「私は女性ではない。男性でもない」
「女性と男性しか存在しないとされる価値観の社会では、私は、『存在しない』」
そのことで、いままで、イヤというほど苦しんできた。
拡大する今将人さん。「黒などの強い色が好きです」。背景は、性的少数者の象徴である「レインボーフラッグ」=東京・新宿の損保ジャパン
大学生のころ、会社員になりたかった。でも、ありのままの自分を受け入れてくれる会社はあるのだろうか。そう思い続けてきた、ひとりの人間のストーリーである。
今は、奈良県で育った。
すべての始まりは5歳のとき、保育園で似顔絵を描く時間だった。
「似顔絵の背景はピンクか青の絵の具で塗ってね」と先生は言った。今は青く塗った。ピンクより青が好きだから。だが、絵を見た先生に言われた。
「男の子が描いた絵だと思った」
大人たちが期待する「女の子」としての自分と、ありのままの自分にギャップがあることに、はじめて気がついた。
家の近所で戦隊ヒーローのショーがあった。戦隊ヒーローは5人でスーツは5色。赤、青、黄、緑の4色が男、ピンクは女だ。ショーは、ピンクが悪者につかまり、レッドが助ける、という話だった。今は思った。
〈女性は弱いもの。そして、強い男性に助けられるものなんだ。私は女じゃない〉
だったら自分はどう振る舞えばいいのだろう。悩み、苦しんだ。
出席名簿は男女別
小学校に入学した。毎日が苦痛だった。なぜなら、出席をとるとき、名簿は男女別だったから。まず男子が呼ばれ、つぎに女子の名前が呼ばれる。女子の名簿が呼ばれ始めると、すぐに今の番がくる。
〈女子の中にある私の名前なんて、聞きたくない〉
小学校の教室で、仲のいい男の子に、「男のように振る舞いたい」と話した。彼が、かんでいたガムを道ばたにペッと吐き捨てた。今は言った。
「そんなことしたらダメでしょ」
彼は言う。
「男のようにしたいんなら、こ…
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