モディ首相は8月5日、ヒンズー教徒とイスラム教徒が対立していた聖地、ウッタル・プラデシュ州のアヨディヤに建設されるヒンズー教寺院の定礎式に出席した。このことは、インドが多数派主義の新しい時代に入っていることを象徴している。多数派のヒンズー教徒が人口の14%を占めるイスラム教徒などの少数派の権利よりも優先されることになる。
新しい寺院の場所は、1992年にヒンドゥー教の暴徒によって破壊されたモスクがあった所である。16世紀に建てられたモスクの破壊は宗教的暴動につながり、2,000人が死亡し、ヒンズー民族主義の波が起こった。それが最終的には、モディをインド人民党(BJP)の権力の座に押し上げた。モスクのあった場所に寺院を建設し始めるのはBJP政権がインドのイスラム少数派を周辺に追いやるパターンに合致する。インドで唯一イスラム教徒が多数派を占めるジャンム・カシミールの自治権は、ちょうど1年前に剥奪されている。 モディはヒンズー民族主義の活動家として頭角を現し、首相にもなった。したがってヒンズー教徒の思いを大切にする必要がある。しかし、人口の14%を占めるイスラム教徒を疎外して、強いインドを作ることができないことは明らかであり、下手をすると、インド国内でイスラムのテロリストが育つ土壌を作り上げかねない。強いインドは、国内が団結していてこそ出来上がる。 8月7日付のフィナンシャル・タイムズ紙社説は「モディはグジャラート州で、経済運営で高い評判を得、インドの成長と所得の再活性化の公約で選ばれた。ビジネスに好都合な改革はあまりなされておらず、経済は2018年以来、減速している。最近の国境の衝突は中国との関係を緊張させている。首相はまだ選択肢がある。インドをさらに明白なヒンドゥー教の国に再形成するために分断的な宗教政治を追求する道を継続するか、あるいは成長と真の改革に焦点を合わせるかである。寺院ではなく、強い経済、近代的なインフラ、貧困からの脱出の機会がインドの文明的な傷をいやす本当の薬であろう。」と指摘する。その通りであろう。モディが経済成長、近代的インフラ建設、雇用増大などに注力することが最も取るべき道である。 自由民主主義にとっては、政教分離は必要なことである。民主主義は要するに多数の支配ということであるが、これが機能するためには、人権の擁護、少数派の意見の尊重など、自由主義的政策がどうしても必要になる。そして、それは、政権がある意味で没価値的になる、世俗的になることを要求する。インドの人口の80%はヒンズー教徒であるが、だからと言ってイスラムの少数派を差別し、その権利を無視していいわけがない。そういうことはインドの民主主義の死につながるだろう。 インドはインド・太平洋において中国との関係を踏まえ、パートナーとして協力関係を今後強化していくべき国である。インドが強い民主主義国であることが日本にとっても重要である。モディ首相が賢明な選択をしてくれればと希望せざるを得ない。
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August 30, 2020 at 10:14AM
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