今季で鳥栖の指揮官を退任している金明輝氏 [写真]=宮地輝
Jリーグは30日、サガン鳥栖および、鳥栖の金明輝前監督に対して、パワーハラスメント行為への懲罰を決定した。
金前監督に対しては、8試合または8試合に相当する期間の経過における公式試合への出場資格停止およびけん責。鳥栖に対しては罰金300万円とけん責の懲罰となった。
対象事案は金前監督が鳥栖U-18の監督を務めていた2016年から、U-18チームまたはトップチームの選手およびスタッフに対して、暴力行為や暴言によるパワハラを繰り返し、多数のチーム関係者が深刻な精神的ダメージを受けるなどの被害が複数生じたことに対して。クラブには適切な処分をして自浄能力を示すべきであったにもかかわらず、監督の選手への足払い行為以外にもパワハラの訴えや報道がありながらも向き合わずに必要十分な調査も行わなかったことに対して。ユースチームでのパワハラ行為や調査に対しての隠ぺい行為を行おうとしていたことが明らかになっている。
Jリーグが発表した懲罰理由などの詳細は下記の通り。
【対象事案】
(1) 金明輝前監督
金前監督は、サガン鳥栖U-18 の監督を務めていた時期(2016年~2018年)から、サガン鳥栖のU-18またはトップチームの選手およびチームスタッフに対し、暴力行為や暴言によるパワーハラスメントを繰り返しており、その結果、多数のチーム関係者が深刻な精神的なダメージを受ける等の被害が複数生じた(以下、本件行為)。
(2) サガン鳥栖
金前監督による本件行為は、選手のプレー環境やスタッフの就業環境に直結するクラブ内部の問題であるとともに、クラブの信頼・信用に関わる問題であり、リーグではなく、クラブ自身で必要な調査を実施して事実を把握し、その原因究明、再発防止、適切な処分を行うことで、クラブの自浄能力を示すべきであった。にもかかわらず、クラブは、同監督による選手への足払い行為(以下「本件足払い」)※以外にも同監督による暴力行為を含む悪質なパワーハラスメントに関する訴えや報道があることを知りながら、それに正面から向き合うことなく、必要十分な調査を行うこともなかった。その結果、多くのチーム関係者が精神的な打撃を受ける等の被害が生じるとともに、一部報道により社会的非難を受け得る状況を招いた。
※2021年6月26日、サガン鳥栖トップチームの練習中に、金前監督が選手を手で押さえながら足払いをして転倒させた事案
【懲罰内容】
(1)金明輝前監督
①公式試合への出場の資格停止8試合又は8試合に相当する期間の経過
※公式試合に参加する立場の役職に就いていない場合は、公式試合8試合に相当する期間の経過
※期間:2022年2月19日~3月26日
※J1リーグ、ルヴァンカップを含む
※上記期間の経過をもって公式試合8試合の出場の資格停止を消化したものとみなす
②けん責
(2) サガン鳥栖
➀罰金300万円
②けん責
【懲罰理由】
(1)金明輝前監督
①「JFA指導者に関する規則」第20条第7号は、選手その他チーム関係者に対する「暴言・暴力及びハラスメント行為を行わない」ことを遵守事項として定めている。
②金前監督は、選手に対して悪意を持って接したことはなく、指導の意図を有していたというものの、それをもってハラスメント等の該当性が否定されるものではない。
③本件行為は、いずれも社会的に許容されうる範囲を逸脱し、指導又はコミュニケーションの方法として必要性を欠くものであることが明らかであって、かつ、相手方に心理的ダメージを与え、又は就業環境を損なうものであることから、「暴言」又は「ハラスメント行為」に該当する。
④また、金前監督による本件足払い等の一部の行為は、報道により広く一般に知れ渡り、Jリーグの信用が大きく毀損されており、これはJリーグ規約第3条第1項ないし第3項に違反するものである。
(2) サガン鳥栖
①金前監督の本件行為に関し、管理監督上の過失が認められる場合、クラブも責任を免れない(Jリーグ規約第146条[両罰規定])。
②Jクラブには、暴力、暴言、ハラスメント行為等を発見し、防止するための体制作りが求められているものの、金前監督による本件行為が長期間にわたって繰り返される間、クラブがこのような体制作りや措置を講じた形跡はほとんどなく、看過してきた。
③したがって、金前監督の本件行為に関するクラブの対応は、同監督の管理監督義務を果たしているとはいえず、Jリーグ規約第3条第3項に違反するものである。
【懲罰量刑の参考とした事項】
(1)金明輝前監督
①本件行為を目撃したチーム関係者の大半が、強い衝撃を覚えたり、やりすぎだと感じたと証言しており、軽微なものではない。また、U-18監督時代の行為は、高校生に対する暴力であり、教育的見地からも強い非難に値する。
②本件行為のうち、暴言の内容は様々ではあるが、いずれも指導に全く必要がなく、かつ悪質な発言である。
③金前監督による言動を一因として、出勤できなくなったり、精神的に追い詰められていた者がいたことからすれば、本件行為がクラブに所属する選手、スタッフらに与えた影響は大きい。また、本件足払い等の一部の行為は、報道により広く知れわたることになり、Jクラブでパワーハラスメントが発生したとの評価は免れず、本件行為がJリーグに与えた影響も極めて大きい。
④金前監督は、クラブ主導で設置された第三者委員会による調査に際して、チーム関係者に対して自らに不利な供述をしないよう働きかけるなど、自らの問題行為が発覚することを妨げ、本件行為の是正を妨げた。しかしながら、本件について以下の酌量すべき事実がある。
①本件足払いについては、同クラブにより、金前監督に対して3試合の指揮資格停止処分及び当分の間の練習参加停止処分が下されている。
②金前監督の本件行為は、長期間にわたっており、自ら是正する機会は十分にあったと考えられる。しかし、同クラブから強く是正を求められることがなかったのも確かであり、金前監督が問題に気づく契機は乏しかった。
(2)サガン鳥栖
①上記(1)に記載の通り、本件行為は、暴力・暴言いずれにしても悪質性の高いものである。
②同クラブは、少なくとも数年にわたり、本件行為を防止するための措置をとっておらず、長期間にわたって発見、是正のための措置を怠ってきた。
③同クラブは、遅くとも2021年7月28日頃までには、金前監督による本件足払い以外の暴力行為等に関する選手らの訴えがあることを認識していたにもかかわらず、本件足払いに対する3 試合の指揮資格停止等を下したのみであり、本件足払い以外の暴力行為等に関する調査を十分に行わなかった。
④本件足払い等の一部の行為は、報道により広く知れるところとなっており、これによりJリーグの信用が大きく毀損された。
⑤本件足払いの発覚後、同クラブでは、選手らの面談、第三者委員会による調査等を実施したものの、調査としては不十分なものであり、適切に調査を尽くしていれば本件足払い以外の問題行為についても発見することができた可能性が高いと考えられることから、酌量すべき事情があると評価することはできない。
【適用条項】
(1)金明輝前監督
『Jリーグ規約』
第3条[順守義務]第1項、第2項、第3項
第133条[Jリーグにおける懲罰]第2号
第142条[懲罰の種類]第2項第1号、第3号
『JFA指導者に関する規則』
第20条[順守義務]第2号、第7号
(2)サガン鳥栖
『Jリーグ規約』
第3条[順守義務]第1項、第2項、第3項
第133条[Jリーグにおける懲罰]第2号
第142条[懲罰の種類]第1項第1号、第2号
第146条[懲罰規程]
第156条[第3条第3項違反の罰金]第1号
『JFA指導者に関する規則』
第20条[順守義務]第2号、第7号
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