(2020/03/02 12:12)
文=夏目英男(なつめ・ひでお)
中国 ヒップホップ YouTube
(「哈尼宝貝―創作MV」(日本のドラマや映画のワンシーンを切り取って、「哈尼宝貝」を合わせた創作MV。著作権はともかく、必見!)
とある夜、就寝前の日課である中国版Tik Tok「抖音」(ドウイン)を観るため、アプリを立ち上げたところ、一番最初に画面に映し出されたのは民族衣装に纏った中国人女性が花火を手に取っている動画だった。
少数民族の女性だろうか、顔立ちが東南アジア系の風貌で、中国人口の大多数を占める“漢民族”らしくはなく、背景にある建築物なども少数民族系の建築。動画自体は特に目を惹くようなものではなかったが、それを開いた瞬間、奏でられるバッググラウンドミュージックにとても興味を持った。
出だしに、民族系リズムと共に、「My Honey Baby」という歌詞があり、その直後に今まで聞いたことのない言語の曲が流れたのだ。動画のコメント欄を見ても、動画に対するコメントはちらほら見えるものの、その大多数が曲名に対する質問であった。
よく調べてみると、一目惚れならぬ、“一耳惚れ”した曲をリリースしたそのアーティストは、中国でも新進気鋭の若手グループ「南征北戦NZBZ」の「哈尼宝貝」(Honey Baby)という曲だった。
南征北戦NZBZは2012年10月1日にデビューし、汀洋(Ting Yang)、趙辰龍(Zhao Chen Long)、尼成(Ni Cheng)の3人からなるユニット。彼ら3人とも中国の少数民族であり、それぞれ回(フェイ)族、瑶(ヤオ)族、佤(ワ)族の出身だ。そのアイデンティティを活かし、南征北戦NZBZもV-Pop(Various Pop Music)というジャンルの曲を数多く制作している。この「哈尼宝貝」も、またほかの中国民族である哈尼(ハニ)族の歌手である「米線」とコラボし制作した曲のひとつである。
「哈尼宝貝」は、哈尼族の民族音楽エッセンスを存分に取り込みながら、現代ポップと南征北戦NZBZの力強いラップを掛け合わせた中国民族マッシュアップ。あまり中国の民族音楽に馴染みがない人でも、思わずループ再生してしまうほどクオリティの高い曲になっていることは、一聴してもらえばすぐに分かるはずだ。
「哈尼宝貝」のリリース時期は12年12月1日だが、実際メガヒットしたのはその7年後の19年10月。前回の当コラムでも書いた「抖音」での動画が火付け役となり、民族系UGC(ユーザー生成コンテンツ)の専用曲と名付けられた。
20年2月時点では、約9.2万人ものユーザーがこの曲でUGCを制作し、多くのコンテンツが民族系衣装を纏った少数民族がダンスする動画だ。中国のTik Tokである抖音は既にショートビデオプラットフォームの範疇を超え、今や一大音楽プラットフォームへと変化を遂げている。
そして抖音上では、この「哈尼宝貝」以外でも、民謡マッシュアップのジャンルが大きな人気コンテツになっているのだ。
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